井原プロダクトのBLOG

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リム・カーワイ監督作品 どこでもない、ここしかない

バルカン半島を旅しながら、現地の友人を俳優に仕立て上げ、脚本なし、カメラマンと音声さん各1名という最低限のスタッフで映画なんか作れるもんなんだろうか?と興味津々で観てきましたところ、何とちゃんと映画になっていました。その企画力と行動力にびっくり。

この映画の背景は結構複雑で、主人公はマケドニアにすむトルコ系イスラム教徒。といってもピンと来る人は少ないと思うけど、マケドニアは15世紀より長い間オスマン帝国により支配されていたものの、2つの大戦を経て現在は独立。つまりトルコ系はマイノリティであるらしいのだが、そういう事はあまりどうでも良くて、この男、ビジネスやり手で女好きのどうしようも無い男として描かれる。ストーリーも夜な夜な女の子をおっかける旦那に愛想をつかせた奥さんが出ていくという、非常にシンプルなもので、全体を流れる時間もゆったりしているのだが、奥さんを追っかける距離は、マケドニアからクロアチアを経由してアルバニアへとアドリア海沿岸を大きく移動している。一体旅行がしたかったのか、撮影がメインだったのかよくわからない状況で生まれた映画である。

でも、なんだかそこがいい。普通の映画ならここでカット!となる様な場面でも、あと何秒かその場の描写が続く。そのため会話がなくなった後の気まずい時間とか、単にぼーっと流れる時間とか、その場の空気感をリアルに体験できる。例えば、妻のウーダンがベランダで夕日をみながら母親と電話するシーンがあって、ストーリー的にはその会話の中で「今夜は夫と外食することになっているの」っていうのが観客に伝わればよいのだけど(そして夫は帰ってこない)、そのベランダから見る夕日に染まる建物を見ながら階下の街の騒音を聞いているだけで、なんだかそこに旅している気になれるのだ。そういうシーンが、この映画には沢山あって旅愁を誘う。ストーリーのシンプルさや、ところどころわかりにくい所(結婚式のシーンで花嫁が出てきたと思ったら主人公の奥さんだったとか)、こういうのは撮影事情にもよるのだけれど、逆にそういう制限をしてよくここまで映画に仕上げたリム監督の手腕と情熱に感服するのである。そういう映画です。


そして、リム監督はあまりプライベートを語らないので本人の恋愛事情はよくわからないのだけど、海辺のデートシーンとか、クライマックスのシーンとか、あとオープニングとエンディングでオチをつくっているところとか、意外とロマンチストだなぁと。今度会ったら各国を旅してどんな出会いを経験してるのか聞いてみたいわ。




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大阪が舞台の「Fly Me To Minami 恋するミナミ」、香港を舞台にした「マジック&ロス」など、世界各国で映画制作活動をおこなうマレーシア出身の映画監督リム・カーワイが、妻に逃げられた男の物語を軸に、東ヨーロッパで現地の人びとと即興で作り上げた異色ドラマ。バルカン半島スロベニアの首都リュブリャナ。近年の観光と不動産ブームは、ゲストハウスとアパートメントを経営するフェデルに経済的な成功をもたらした。イスラム教徒でありながら、ゲストハウスに宿泊した女性や知人の彼女にまで手を出す女癖が悪いフェデルに、妻のヌーダンは愛想を尽かして家を出て行ってしまう。ようやく妻の大切さに気付いたフェデルは、ヌーダンを取り戻すためにマケドニアの田舎町へ向かうが……。

どこでもない、ここしかない
No Where, Now Here
2018/スロベニアマケドニア・マレーシア・日本合作
配給:Cinema Drifters

ihatomo 16分前